安濃町に大規模営農型太陽光発電計画
安濃中央公園の隣接地約10万㎡
近隣住民は景観が壊れると反対!!
地権者は歓迎か?
耕作放棄地が目立つ農地
田園風景が広がる津市安濃町に、大規模な営農型太陽光発電が計画され、周辺住民から景観が損なわれると反対の声が上がっている。場所は津市安濃中央総合公園に隣接する粟加地区の畑地。第1種農地で農業振興地域だが、農地所有者の高齢化が進んで耕作放棄地が目立っている。居住環境の変化に農地法の規制は無く、反対運動が広がれば行政訴訟に発展する可能性も否定できない。今後の展開が注目される。
計画を進める(株)エコスマイル(本社・名古屋市中区栄、東田顕史代表取締役)によると、場所は安濃中央総合公園の芝生広場の東北側の畑地で、計画しているのは約10町歩(約3万坪=約10万㎡)。農業振興地域(第一種農地)だが、大半が不耕作地。耕作放棄地の中には雑木林になっている農地もある。すでに、大半の地主への説明は終え、近隣への説明が進められている。
営農型太陽光発電とは空中利用権を設定して、地上は農作物を栽培する。空中利用権は地表を離れて地上の空間を利用する権利で、区分地上権の一種。土地の上下の範囲を定めて地上権を設定したもの。太陽光発電設備の支柱を立てて、地上2・5m~3mに設置して、下の地表部分は耕作地として利用する。
農地転用するのは太陽光発電設備を支える支柱部分だけで1反(約300坪、約1000㎡)当たり約1㎡程度。
説明会は11月14日(日)と11月21日(日)、安濃町草生の仲之郷公民館で開かれた。参加したのは10人余りで、主に計画地に隣接して住居がある住民。住宅開発を計画している事業者も。参加者から、「自然環境が壊れる」「農地の取得や貸借の話を進める前に話を聞きたかった」「農薬を使えば環境破壊が発生する」などの意見が出された。
(株)エコスマイルの上坂裕一エコエネルギー事業部課長は「脱炭素をめざす自然エネルギーの主力が太陽光発電。政府も奨励している。地権者への説明では反対はほとんど無かった。高齢者の方が多く土地を手放したがってみえる方も多かった」と説明。
太陽光発電設備の下で榊を栽培する(株)彩の榊(本社・青梅市)の佐藤幸次代表取締役は、「人々が山に榊を取りに行かなくなって、榊の栽培が始まった。榊は半日陰を好み、山でも大きな木の木陰に自生する。寒冷、霜に弱い。太陽光のパネルの下は日陰になるので栽培に適している。農薬はほとんど不要。特にお伊勢さんのお膝元で栽培する榊は人気が出ると思います。作業は障がい者の方が主力になってやっている」と話した。
建設予定地と安濃中央公園に挟まれた場所に住む住民のAさんは「寝耳に水の話。自然豊かな場所だと気に入って引っ越ししてきたのに、メガソーラーができるとは驚いている」と話している。公園の西側で住宅開発を進めている建築会社のBさんは「津市最大の安濃中央公園に隣接してメガソーラーができるのは驚き。自然に囲まれた古墳公園もあり、市民の憩いの場。営農型とはいえ農地法の抜け穴を狙ったのでは無いのか。」と憤慨している。
◎農地法では規制できない
安濃総合支所にある農業委員会事務局は「業者の説明会には出ていない。耕作放棄地が多い場所で、営農が復活するのは望ましい」と話している。
営農型太陽光発電施設は、農地法では規制する条項は無い。
県の平成29年「太陽光発電施設の適正導入にかかるガイドライン」(令和3年12月1日に改訂)では地域住民とのコミュニケーションについて、「事業者は、事業計画作成の段階から地域住民と適切なコミュニケーションを図るとともに、地域住民に十分配慮して事業を実施するように努めてください」として、「配慮すべき地域住民の範囲や説明会の開催、戸別訪問など具体的な対応方法を市町に相談」と定めている。
2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするという目標を掲げ(2015年パリ協定)、その達成に向けて、政府は太陽光などの再生可能エネルギーを最大限導入する方針。しかし、大規模な発電施設が景観を損ねたり、強風でパネルが吹き飛ばされたり、斜面の太陽光パネルが豪雨で崩れ落ちたりすることへの懸念から、住民が反対するケースがあり、建設を規制する条例を設ける自治体が全国で増え続けている。
(株)エコテックは太陽光発電設備が完成すると、設備のオーナーを募集して、施設管理みを行うという。事業計画者が施設完成後は事業責任者では無くなる仕組み。周辺住民にとって不都合な事態が発生した場合、住民に対峙(たいじ)するのは建設時に関わりを持たなかったオーナーとなり、当事者能力を持ちうるのか疑問が残る。
建設を許可する農業委員会は農地法に基づき、営農、農業生産、食料生産の増大を目指しており、耕作放棄地が増える中山間地域で営農型太陽光発電設備の建設は、農地が農地として生産を維持する限り歓迎する構え。
すでに安濃町草生地区では営農型太陽光発電設備が数カ所完成している。霊峰経ヶ峰のすそ野に広がる段差のある水田は崩落を防ぐ大な土手が、網の目のように伸びて見事な景観を形づくっている。しかし、耕作する農家は高齢化し、大規模な機械化が難しい地形で、耕作の引き受け手は期待できない。斜面に目立ちはじめた耕作放棄地に太陽光発電が増えていくのを防ぐ術は無い。ましてや、手続きの厄介な農地転用をせずに太陽光発電設備が建設できる「営農型太陽光発電」を、農地所有者や住民は拒否できるのだろうか。