県内初の第35回日本パラ陸上競技選手権大会

 パリパラリンピックの最終選考を兼ねた「第35回日本パラ陸上競技選手権大会」が6月8(土)、9(日)の両日、伊勢市の三重交通Gスポーツの杜伊勢陸上競技場で開かれ、約240人の選手が出場した。
 大会は三重パラ陸上競技協会の佐野恒裕理事長(36)らが約3年前から誘致活動を展開。今回県内での開催は初めての開催となった。大会には、パリパラリンピック内定選手も出場し、世界記録とアジア記録を含む26個の新記録が生まれた。
 その大舞台で高田高校の3年生の竹内小晴さんが選手の「目の代わり」となる「コーラー」を務めた。現役の高校生が「コーラー」を務めることは極めて稀。
 県で初めての開催となった「第35回日本パラ陸上競技選手権大会」は、三重県出身の義足T63クラス(大腿義足使用)の保田明日美選手(パナソニック)が400mで1分19秒72のタイムで自身の持つ世界記録を更新。男子200m(視覚障がいT13クラス)で福永凌太選手(日本体育大学)が21秒95のタイムでアジア記録を更新するなど、2日間で世界記録1、アジア記録2、日本記録9が生まれる大会となった。
◎パラアスリートの番組制作がきっかけ
 髙田高校放送部は、昨年から同校の卒業生でパラアスリートとして活躍する保田明日美さんのドキュメンタリー番組を制作するなど、パラアスリートの番組制作を行っている。今年も竹内さんと、峰 彩葉さん(3年)、澤江 巧実さん(2年)が引き続き、番組制作を行っている。取材活動を通じて知り合った三重パラ陸協の佐野恒祐理事長からの勧めで、視覚障がい者が伴走者と走る会「三重DBGランナーズ」での練習の様子を取材したり、体験をしたり。4月には国スポ第1次選考競技会で、円盤投げ競技のガイドを務めるなどという活動を行ってきた。。
 3年生で前部長の竹内さんが実際に視覚に障害のある辻岡恵子選手(62・医療法人永井病院所属)のガイドランナーと辻岡さんがエントリーしたやり投げ・円盤投げ「コーラー(話し手)」を務めることになった。
 コーラーは、ガイドランナーのようにロープで繋がることの出来ない競技、走り幅跳びなどの跳躍競技、やり投げなどの投てき競技などの選手に声でサポートするのが役割。声で投げる方向を教えたり、まっすぐ助走させるために音を出して選手を呼ぶ、踏切のタイミングを教えるというのが役割。ガイドやコーラーは言葉や手拍子などで指示するが、審判を邪魔したり、危険でない限り、立つ位置や音声の出し方は自由だ。パラ五輪などでは日々の練習でつくりあげたオリジナリティあふれる多様なコンビネーションも見どころのひとつ。
 辻岡恵子選手は網膜色素変性症を患い、30代の頃から段階的に目が見えなくなった。陸上を始めたきっかけは友人から障害者国体(全国障害者スポーツ大会)の予選会に誘われたこと。気軽な気持ちで参加すると、60メートル走と立ち幅跳びで本大会への出場が決定した。その後はどんどん記録の伸びる陸上の面白さに引き込まれた。やり投げにも挑戦し、日本記録も更新した。
 1日目には、円盤投げで「コーラー」を担当。投げる位置、投げる方向などを「○○mここです」と目標距離も伝えた。初めての経験だったが、大舞台で堂々と勤め上げた。
 100mは2日目に開催。予選を突破し、決勝で竹内さんと走りたいという考えで、これまでのパートナーと出場し、予選突破を狙ったが、雨と向かい風と言う悪天候に見舞われ、0・1秒差で予選敗退になった。竹内さんがガイドランナーとして走ることは無かった。
 練習からずっと記録に残してきた峰さんと澤江さんは「パラリンピックも陸上も知らない世界だった。実際間近で見て“カッコいい”と思った。障がいとか何ら関係ないんだなと感じた。佐野さんがパラ陸上を通して共生社会を作りたい!と話されていますが、自分たちも参加して共生社会を作る手伝いがしたいと思いました」と話した。
 竹内さんは「本番でみんな記録を狙っている中、“こうやって声をかけると選手が分かりやすいよ”と、他の選手やガイドさんがアドバイスしてくださるんです。競争ではなく大会そのものが共生でした」とし「私が参加することでガイドランナー、コーラーと言った人たちのすそ野を広げたい。私の挑戦が種となってどんどん参加する人が増えて行けば…と思っています」。
◎東京パラで伴走者に注目
 東京パラリンピックの陸上では、主役のアスリートだけでなく、視覚障害選手を支える伴走者も注目された。ガイドランナーに関心を持った人が増えたが、地方によっては伴走者が足りず、走りたくても走れない視覚障害者がいる。練習に参加できても障害のために健常者と同じ練習ができない悔しさを抱える選手は多い。特に高いレベルになるほど、伴走者にも走力や技術力が求められるため、不足している。
◎県内環境は未整備
 佐野理事長は「県内はパラ競技の選手発掘や育成などの環境がまだ未整備なので、この大会が前進することのきっかけになってほしい。竹内さんの挑戦を見て、高田高校の陸上部の子たちがガイドランナーをやってみたい。と声を上げてくれている。これこそ私たちが狙っていたこと。ガイドランナーは、トップ選手とレベルの高い競技会に出る人ばかりではない。趣味でランニングを楽しみたい視覚障害のランナーは多く、そうした人たちを支える伴走者への需要も大きい。一緒に歩くから初めてもらえれば良い。」としこう続けた「学生時代に陸上をやって来た子たちが、第2のチャレンジの場としてパラ陸上を選んでもらえるよう環境を整えていきたい」と話した。