レトロなまちなみを巡り歩く機会が増えた。
 「重要伝統的建造物群保存地区」(略称、重伝建地区)と言う“とっても大切なところ”という肩書きのある地区である。
 重伝建地区は、文化財保護法で歴史的に価値が高い伝統的建造物群とその周辺環境を保存するために国が選定した集落や町並みで、現在全国に117地区ある。
 三重県では亀山市の「関宿」(東海道の宿場町)が重伝建地区である。
 有名なところとしては、中山道の妻籠宿(長野県)や合掌造りの白川郷(岐阜県)などがある。 
 もう一つは、「歴史まちづくり法で認定された重点区域」である。
 ここも、歴史的建造物の保存だけでなく、伝統産業や祭礼行事など地域の環境(歴史的風致)の維持及び向上を重点的に推進しているところで、現在全国に66地区ある。
 三重県では亀山市(東海道沿道)、明和町(斎宮跡周辺)、伊賀市(上野城下町など)に重点区域がある。
 中部地方では、高山市(岐阜県)や犬山市(愛知県)など12都市に重点区域がある。
 昨年は中部地方の各都市の首脳が明和町に集まって、中部歴史まちづくりサミットが開催され、私も参加した。
 重点区域は、重伝建地区や重要文化財に指定された建造物のある土地及びその周辺の区域であることが認定の条件となっている。
 そのため、区域内には多くの文化財があり、歴史好きの人にはおすすめの“まち歩きエリア”である。
 津市にはまだ重点区域はないが、県下唯一の国宝建造物の高田本山専修寺とその周辺区域(寺内町)は、今後の歴史まちづくり期待のエリアである。
 文化財をPRして、まちづくりや観光振興を考えるようになってからは、少し観光目線でなくなってきたが、重伝建地区や重点区域の歴史的まちなみに残る町家やクラシックな洋館が、カフェになっているのを見つけると、つい立ち寄って「文化財カフェ」を楽しんでみたくなる。
 明治・大正・昭和初期の趣を残す店内は、歴史好き、古い建物好き、珈琲好きの観光客や地元客が集まり、ゆったりと珈琲を飲みながら懐かしい雰囲気を味わっている。実は私もその愛好者の一人である。
 文化財建造物のようなクリエイティブな空間にいると、いろいろなアイデアが浮かぶ。
 最近は文化財建造物を活用してアート展やコンサートなどが企画されることが多くなったが、文化財カフェにもギャラリースペースや生演奏を楽しめるステージがあると、アーティスト(作家)や音楽好きの人も集まるかも…
 静かな雰囲気もいいが、たくさんの人に来てもらわないと、この良さと大切さは伝わらない。
 歴史的まちなみの残る地域の多くは、高齢化と人口減少で空き家の増加が懸念されている。
 今後どうすれば地域が守れるのか、また、日常の管理の負担が大きい文化財建造物をどのように保存・活用していったらいいのか…
 たくさんの課題がある中、今年3月、市町が地域振興(まちづくり)のために文化財を活用しやすくする文化財保護法と地方教育行政法の改正案が閣議決定した。平成31年4月1日から施行される。
 消えゆく可能性のある歴史的まちなみや滅失の恐れのある文化財建造物をまちづくりや観光に活かしつつ、地域社会総がかりで文化財継承の担い手を育成し、文化財の計画的な保存・活用の促進を図るというものである。
 改正案によると、市町が作成した「文化財保存活用地域計画」を国が認定すれば、市町は独自に保存・活用事業ができる。この地域計画の作成に当たっては、民間団体や商工会なども参画できるため住民の意見が反映できる。文化財を使って事業収益を生み出し、管理・修理費を自己調達できるような仕組みづくりも可能だ。
 文化財とアート(芸術・音楽)と食のコラボ(共同)は、新しい文化財の楽しみ方で、賑わいを創出し、文化財のバリューアップ(価値の創造)と文化財継承の担い手の確保にもつながるのでは…
 また行ってみたくなる「文化財カフェ」ができそうな予感がする。
 歴史的な建物で、素敵な作品を見ながら、きれいな音楽を聴きながら、おいしいスイーツと一杯の珈琲を味わえるところ…
 今、あなたがイメージしたカフェは… 古い町家、それともモダンな洋館?
 (コクド鑑定・調査㈱代表取締役社長、不動産鑑定士、ヘリテージマネージャー)