トランスジェンダー性的少数者に理解を
「LGBT理解増進法案」施行1年
高田高校生が絵本を製作
「男」「女」決めつけないで!!

 性的少数者について理解を深めるための「LGBT理解増進法案」が施行されて1年。性的少数者の人権擁護へ一歩前進した一方、SNSなどを使ったバッシングが激しくなった。特に標的となっているトランスジェンダー女性。「法が制定されると、男性器の付いた人が女湯に入ってくる」「女子トイレを使うから、性犯罪が増える」など、女性の不安に付け込み、恐怖心をあおって対立させるような言説がばらまかれている。トランスジェンダーの権利を守ることが女性の安全を脅かすという間違った解釈が横行している。
 昨年10月、出生時の戸籍の性と自認する性が異なる「トランスジェンダー」について子どもたちに知ってもらおうと、高田高校放送部の生徒らが絵本「高校生がトランスジェンダーから学んだこと」を制作した。当事者を支える人たちは「トランスジェンダーは当たり前の存在。差別されるようなことじゃない」との思いを込め描かれた絵本には、トランスジェンダーの真の姿が描かれている。

 絵本「高校生がトランスジェンダーから学んだこと」は、同高放送部員や卒業生、当事者の母親らで作るのNPO「NFT」(New Future of Transgender)が製作した。
 性別への違和感に苦しみながら生活していた「えみちゃん」が、高校入学を前に「お母さん、私は男の子なの。もうスカートも限界……ごめんなさい私はお母さんに赤ちゃんも産んであげられない」と震えながら母に泣きながら打ち明ける。
 えみちゃんの母親のモデルになったのは、いなべ市の浦狩知子さん。絵本に登場するえみちゃんは、浦狩さんの子どもがモデルだ。平成26年(2014)、高校受験の願書を出そうとしていた時、子どもから涙ながらの告白を受けた。最初は戸惑った。何を言われているのかさっぱり分からなかったが、ただ尋常ではない子どもの様子を見て“死なせてはならない”と思い、「大丈夫よ。好きなように生きていいんだからね」と励ました。
 ズボンで通える高校を探した。いろんな病院に電話をし、相談相手を求めた。しかし、トランスジェンダーについて理解できる機関はなく、途方に暮れたという。
 平成29年(2017)県立看護大学でトランスジェンダーの講演会が行われ、藁をもつかむ気持ちで参加した。質問時間に挙手をして必死に訴えた。その姿を見ていたのが、当時高田高校放送部員だった江崎夢さん。女性から男性に性別変更した伊勢市出身の山口颯一さんを取材し、性の多様性について番組を制作していた。講演会終了後、「私たちにお手伝いできることは無いですか?」と声をかけたことがきっかけになり、江崎さんを代表に、トランスジェンダーの明るい未来をめざす団体「NFT」(New Future of Transgender)を結成。積極的に講演会を催したり、県のプロジェクトに採用されてポスターや虹色のタオルを作ったりしてきた。
 絵本作りは21年の夏に浦狩さんが、「小学校低学年の子どもたちにも自分の体験をわかりやすく伝えられるよう、講演のための資料がほしい」と、メンバーに相談したことがきっかけで始まった。浦狩さんは性自認を打ち明けられた経験を元に令和3年(2016)から学校や企業で講演したり、他の当事者家族から相談を受けたりしている。社会の理解は急速に進んだと感じるが、幼いうちからの教育も大切だと考える、積極的に子どもたちへの講演も行ってきた。そん中、低学年の子どもたちにトランスジェンダーについて「言葉だけで説明するのが難しい」と感じていた。
 当初はスクリーンに投影する資料を作ろうとしていたが、「たくさんの人に使ってもらえるように」と、絵本を制作することにした。現在大学1年生の長井華蓮さんが絵と文を担当。長井さんが文章を書いて、「ささいな言葉でだれかを傷つけたくない」と、浦狩さんを含むメンバー約20人で読み、意見交換を重ね、表現を練り上げた。
 絵本は昨年9月に完成。10月からアマゾンなどで、販売も始まっている。絵本はB5判70ページ。2013円(税込み)。絵本には、えみちゃんの物語のほかに、放送部員らが当事者に取材し、実際の出来事を元に創作した心は女性で身体は男性の「レイ先生」の話も収録した。絵本の中では、周りの人にトランスジェンダーであることを打ち明けるまでの葛藤や、「周りの人が受け入れてくれたことで心が軽くなった」といった心情を、文章と手書きのイラストで伝えている。
 高校生たちは当事者への取材を通して、トランスジェンダーへの理解が進んでおらず、当事者が他者に打ち明ける「カミングアウト」をしにくい社会だと感じたという。「この状況を変えるには、トランスジェンダーへの理解しかない。今すぐ変えるのは難しいので、絵本を通して、子どもから少しでも広げたい」と願う。
 浦狩さんは「女の子はこうだ、男の子はこうだ」という社会の決めつけや、「(性的少数者について)理解できない」という社会の雰囲気に苦しむ家族がまだ多いと感じるという。社会を変えるためには、大人が正しい知識を持つことと、子どもへの教育が重要だと考える。「子どもたちだけではなく親やおじいちゃん・おばあちゃんにも読んでほしい。絵本を読んで、トランスジェンダーにどこかで出会う可能性があるということを覚えていて」と訴える。
 絵本は津市立図書館・三重県立図書館にも寄贈。閲覧可能となっている。高校生たちは、県内の放課後児童クラブでの読み聞かせなどを計画する。
 性自認は人格の一部をなし、個人の尊厳に関わるものだ。トランス女性は、生まれたときに親や医師という第三者によって決定された男性という性別に違和感を抱き、女性としての性自認を持つに至った女性で、トランス女性は「自称女性の男性」ではない。
 「トランス」とは「移行」を意味する。心身を含む性別の移行にはいくつかの段階があり、一定の時間がかかります。ほとんどのトランス女性は、自身の性別移行の状況に応じて、慎重に「女性スペース」の利用を見極めている。シス女性(生まれたときの身体の性と自認する心の性が一致している女性)にとって当たり前のことが、トランス女性にとっては当たり前ではないことを1人1人がしっかりと理解するべきではないか。

「岡山大学ジェンダークリニック」が、受診した人を対象に行った調査によると、「女の子扱いされたくない」「胸がイヤ」「声変わりつらい」生まれたときの体の性別に違和感があることで、悩む子どもたちは、約9割が中学生までに自覚し、その多くが親や先生など身近な大人には知られたくないと答えている。
 浦狩さんは「約1割、生まれの性に違和感があると感じている。誰にも話せず悩んで心病む子、死を選ぶ子、ネットで海外から危険な薬を取り寄せる子などがいます。性別への違和感を相談できる人がいるかどうかで、その後、うつになる・死にたいと思う頻度は全然変わってきます。悩みを話すことができる友だちや兄弟も大事ですが、やっぱり親だと思うんですよね。親が理解してくれるかどうか、親にカミングアウトできるかどうか、カミングアウトしたときにどういう反応なのか、というのはそのあとの人生にもすごく影響してきます」と言う。

 三重県は性的少数者に対する支援を巡っては、県は全国に先駆けて取り組みを進めてきた。令和3年(2021)4月には、性的指向や性自認を第三者に暴露する「アウティング」を禁止する条例を、都道府県で初めて施行。同年9月には、同性カップルなどを家族と公的に認めるパートナーシップ宣誓制度を導入した。公営住宅への入居や要介護認定の代理申請などができるようになった。当事者らの相談に有識者が応じる窓口も同年から開設している。
 浦狩さんは「学校での教育機会が多く、当事者らの相談体制も手厚い」と県の姿勢を評価する。
 私たちの多くが「男の子でしょ?泣いたらあかん!」や「女の子なんだから料理ぐらいできないと」と言った言葉で育てられてきた。
 男の子は青、女の子はピンク。色も決まっていた。それが普通だった。でもその普通に苦しんいる人がいる。それは「わがまま」や「個人的趣味趣向」ではない。
 トランスジェンダーについて、大人が勉強してみませんか?誰かの人権が誰かの人権を奪うという発想は間違いで、性的少数者の困り事を考えることは、性差別の根本を解決する道も広がる。デマに惑わされるのではなく、正しく理解して「差別のない誰もが生きやすい町」目指しませんか?
 絵本「高校生がトランスジェンダーから学んだこと」問合せは=高田高放送部=059(232)2004。