団塊の世代の想い・日本の自然の美しさをブログに
桑名市総合医療センターのホームページに、ツツジやツクシ、月下美人、くっつき虫、夏スイセンなど四季折々の草花を写真やイラスト、文でつづった連載のコラム「新 理事長の部屋から」が人気で昨年9月、令和2年4月~3年までの21篇を収載した本「新 理事長の部屋から」(B5判、257ページ、税込み2750円)を三重大学出版会から出版した。美しい文章で綴られたブログは、文字も大きく、老眼鏡が無くても読めると大好評だ。
ブログは平成22年、当時三重大学附属病院の院長を務めていた時、事務担当者から病院のホームページに毎月何か書いてほしいと依頼されたことがきっかけで始めた。「引き受けたものの毎月毎月は何を書いていこうか悩みました。結城神社の梅を見ていた時に、植物を写真に撮って思いつくままに書いて行こうと思い付き今のスタイルになったんです。病院を変わった今でも書いてくれって言われるから・・・。気づいたら12年。今ではライフワークですよ」と話す。
カメラを持って自転車に乗って、季節の草花を探して回るのが休みの日の日課。「問題は冬。探すのが大変なんですよ。困って冬空を題材にすることもあります」と明かす。
本を開くと、さまざまな角度から撮影した色鮮やかな植物の写真が目を引く。見慣れた草花にこんな表情があるのかと再認識させられる写真ばかり。一つの花を撮るのに10回ぐらい通う。「花って写真撮っていても全く面白くない。でもね、何回も撮りに行くとある時すごく驚くほど綺麗に見える瞬間がある。その瞬間、この花はこんな角度でこの光の加減で撮ると一番きれいに見えるんだと分かる、そこまで来ないと全く面白くない。これが写真を撮ることの面白さだと気づいた。その瞬間が撮りたくて我慢して通うんです。」と言う。
映画や文学、絵画、音楽また自身の子どもの頃の話まで、話題がとにかく豊富。現実的な話と同時に理科的な要素も入れたいと植物の部位などの写真も掲載して、花のつくりや仕組みまで紹介している。植物の本として、コラムとして、植物の写真集として、さまざまな分野で楽しめるように工夫されている。
“若い人が、ブログ読んでもピンと来ないって言ってる”と言う声を聞き、若者にも刺さるようにと漫画を読んだり、若者文化を学ぼうともしてみた。しかし自分が経験していないから書けなかった。そこで団塊の世代は社会の変遷の中、こんな風に考えながら生きてきたんだということを残しておこう、今の自然を残しておきたいと考えた。「どんどん変わっていきますからね。恵まれた自然の中で暮らした子ども時代、その素晴らしさなども伝えたいと思っています」。
“美杉町で生まれ幼少期の頃から大門地域で育った。小学5年の時、野口英世の伝記小説を読み、痛く感動し医師を目指した。中学生時代に出会った先生の影響で読書や音楽に興味を持った。「特に本は読まなくてはいけないと思い、片っ端から読みましたよ」。
医師以外の病院職員の仕事についても触れている。「看護師さんや事務員さんたち過酷な環境で仕事している。一生懸命は医師だけでないことも知ってもらいたいんです」と話す。
ブログに苦戦していると、妻・恭子さんが「絵でも描いてあげましょうか」と声をかけてくれた。以来、挿絵を担当。書き終わる度に最初に目を通してもらう。「まあまあ」と言われますと照れ笑いし、「絵を描いてくれるようになってから少し楽になりました。でもね“今月の絵、良かったね”と絵の感想だけ言われたりすることも増えましたよ」。どこかうれしそうだ。
「植物はたくさんあるので許される限り、書き続けていきたい。どんな小さな花にも癖がある。若いころには思ったことが無かったですが、いざ写真撮ると本当に分かる」と植物の魅力を話し、さらに続けた。「夢は、ニューヨークが生んだ伝説の写真家ソウルライターのような写真を日本の田舎で撮っること。一枚だけで良いから追い抜いてやりたい。これからも続けていきたい」と熱く語る。
1975年三重県立大学(現三重大学)医学部卒業し、放射線医学教室入局。米ジョンズホプキンス大学医学部放射線核医学科留学、三重大学医学部放射線医学教室教授、同附属病院長などを経て、2013年から桑名市総合医療センター理事長。