温泉は湯だけではない
増田 晋作
家庭の風呂ではなかなか体を伸ばせません。
温泉に行くと両手両足をうんと伸ばして「いい湯だね」とつい言葉が出ます。
天然温泉には含まれる成分によって分類され、食塩泉は熱海温泉や白浜温泉など歴史ある温泉が多く、毛穴を塩分がふさぎ汗の蒸発をふせぐため保温効果があると言われます。
また枕草子に出てくる玉造温泉は硫酸塩泉、これも塩分を含むため保温効果があり、有馬温泉は鉄泉で昔から「赤湯」と呼ばれ天下人、豊臣秀吉も好んだようです。
玉造、有馬と来れば「ななくりの湯」榊原温泉ですね。
榊原は単純温泉と言って日本で一番多く、道後温泉、鬼怒川温泉、修善寺温泉、湯布院温泉また岐阜の下呂温泉も単純温泉です。
いずれも名湯ですよ。
一昨年、榊原温泉を四一名の湯治モニターを使って「入浴効果実証実験」が実施されました。
その結果、入浴したら皮膚の還元力がアップした。入浴したら頬の水分量がアップした。入浴したら血圧が下がった。入浴したら活性酸素が減少した。入浴したら「酸素」体質が「還元」体質に変化した。と、いいことずくめです。
でもこれは、三ヶ月通い二五人と四泊五日の一六人が、医学博士の松田忠徳先生(グローバル温泉医学研究所所長)の細かい約束事を守って行われた結果なのです。
たまに行く温泉でその効果が得られるでしょうか。
榊原温泉をご利用された方に聞くと「ええ湯ですなあ、肌がすべすべになりましたわ」「アトピーが治った」「痛かった膝が楽になりましたわ」等々、と気楽に入られた温泉でも効果があります。
どうもこれは、大きな浴槽で榊原温泉の肌の感触が、温泉効果となって満足され、ただそれだけではなく「非日常」も手伝っているのでしょう。
地元にいる私たちは「何もない榊原」と誰もが言っていました。
でも、先日も大阪から二家族で温泉に来られた方達をご案内させていただいたのですが、ま、散歩のお伴みたいです。
散歩を終えて、お泊まりの旅館にお送りしたとき、「片側に高い石積みの細い道がよかった」「右も左も田んぼの細い道」「途中通りかかった人が挨拶してくれました」など、私には気づかない満足感を味わっておられたようです。
まだ温泉にも浸かっておられないこの方達の感想を聞いていると、これらが全て温泉のイメージになるようです。
温泉は単に効能がよいからだけではなく、取り巻く環境が温泉を作り上げていくようです。
榊原温泉は湯ノ山温泉のように、風光明媚な渓谷でもないし、いわゆる温泉街とういわれる通りもありません。
でも最近求められている「日本の原風景」、そんな里山に囲まれた農山村地です。この中には生活があり、温もりもあります。
榊原温泉では今「蛍灯(ほたるび)」のイベントが始まっていますが、蛍が飛び交う土曜日と日曜日の夜は、指定されたホタル観賞地に地元の人たちが出会って、誘導など案内をしています。
時期になればどこにでもいる蛍ですが、あの小さな蛍の灯も榊原温泉の思い出に刻んでもらえれば幸いですね。
(元榊原郵便局長)